遂に〇七年に購買力平価と市場レートはほぼ一致し、内外価格差はほぼ解消したのである。
その後〇八年以降の円高によって、内外価格差は再び拡大していると見られるが、大きな流れとしての内外価格差縮小の圧力はかかり続けるであろう。
経済のグローバル化と新興国の台頭が価格体系変化の原因。
〇七年頃までに海外旅行をした日本人は、海外の物価が以前ほど割安ではなく、高くなったと感じていたと思うが、それはこのような内外価格差の縮小を肌で感じていたからである。
このような内外価格差の縮小は、日本経済にグローバル化の波が浸透してきたためである。
世界経済のグローバル化か進むと、海外のサービス業(流通を含む)が日本に進出し、日本より生産性の高い方式で営業を営み、割安のサービス料金を提供する。
また、インターネットを使ってサービス業務を国際的にアウトソーシングすることが普及してきたため、日本の賃金やサービス料金が、直接諸外国、とくにインドなど新興国の賃金やサービス料金と比較されることが増え、ここでも内外価格差平準化の力が働いている。
更に内外のグローバル企業が国際的に立地を検討する際に、日本と海外の賃金、サービス料金、家賃・地代などを比較検討する結果、賃金、サービス料金、家賃・地代などにも、内外価格差平準化の圧力が加わっている。
以上のように、経済のグローバル化とIT化による国内物価の割高解消と、新興国の台頭に伴う資源・エネルギー価格の高騰が、家計に係わる物価の下落と企業に係わる物価の上昇という形で日本の価格体系を変え、GDPデフレーターを下落させてきたのだ。
このことを証明する面白い現象が、〇八年一〇〜一二月期と〇九年一〜一二月期のGDP統計に現れた。
世界同時不況に伴う「純輸出」の急減で、この二つの四半期の実質成長率は前期比それぞれ年率一三・五%と一四・二%の記録的マイナス成長となったが、九八年四〜六月期から〇八年七〜九月期まで一〇年以上、前年同期比で下落を続けてきたGDPデフレーターが、二つの四半期にはそれぞれプラス〇・七%とプラス〇・九%の上昇に転じた。
経済が再びデフレに陥るかも知れない時に、一〇年以上下落してきたGDPデフレーターが上昇に転じたのだ。
原因は、世界同時不況の進行で国際商品市況など海外の物価が下がり、日本の輸入デフレーターが日本国内の総需要デフレーターよりも大きく下落したためである。
これまでGDPデフレーターの下落を見てデフレが終わらない証拠だとしてきた政府は、このGDPデフレーターの上昇を見て、インフレが始まると騒ぐのであろうか。
いま警戒すべきはデフレだと言うのに。
超低金利で国民の資産が年間一三兆円目減り毎年のGDPデフレーターの下落をデフレの継続と見誤った政府は、超低金利を出来る限り続けることを日本銀行に期待し続けた。
このため、量的緩和政策を中止して政策誘導金利をゼロ%から〇・二五%に引き上げたのは、国内企業物価や総需要デフレーターが二年間上昇し続けたあとの〇六年七月となり、〇七年二月に更に〇・五%へ引き上げたあとは、消費者物価の前年比が二%を超えた時期にもこの超低金利を続けた。
このため、三年物の定期預金の新規預入金利は〇・五%前後、一〇年物の長期金利でさえ、国債の市場利回りで〜五%前後にすぎなかった。
このようにいずれの金利も二%超の消費者物価上昇率を下回っていたので、定期預金や長期国債で保有されている国民の金融資産はこの問に大きく目減りした。
過去の平均的な姿からすれば、消費者物価の上昇率が〇八年平均の一・五%の時は、長期金利が四%以上であり、〇七年平均の〇・三%の時でも三%程度である。
〇七〜〇八年の金利水準がいかに低かったかが分かる。
国民の保有する金融資産の平均金利を、仮に〇八年中頃の三年物定期預金残高の平均金利である〇・三三%と仮定すると、〇八年中の消費者物価上昇率の平均二・五%との差は 一七%である。
〇八年六月末現在、家計の保有する金融資産は一五〇三兆円、負債は三八四兆円であるから、差し引き一一一九兆円の純金融資産を持っている。
その一七%が目減りしているということは、年間二二兆円に相当する巨額の金額が、国民の金融資産から消えていることになる。
これは大変な国民の損失であり、国民生活の安全・安心を脅かすものであった。
円安で外国製品と海外旅行が三五%割高に このような超低金利の持続は、後に詳しく見るように海外への資金流出圧力を生み、円の為替相場を安くしてきた。
円の為替相場を見る場合、普通は対米ドルや対ユーロの「名目」為替相場を見る。
〇〇年以降〇七年中頃までの「名目」円相場は対ドルで横這い、対ユーロで円安となっている。
しかし、日本と米国やユーロ圏との貿易取引は全体の三割弱であるから、正確には他の七割強の国や地域との為替相場も見なければ、円相場の実勢は分からない。
そこで、日本の主な貿易相手国・地域の通貨と円との為替相場を、貿易額をウェイトに使つて加重平均した相場が、「実効」為替相場である。
この「名目」「実効」為替相場で見ると、円は〇〇年末から〇七年中頃までに二三%程円安になっている。
しかし、日本と外国との価格競争力を見るためには、「名目」の実効相場では不十分である。
日本の国内物価は比較的安定し、外国の国内物価は程度の差はあれ持続的に上昇しているので、名目相場が横這いでも、日本の価格競争力は高まっていくからだ。
そこで、貿易相手国・地域との名目為替相場を日本とのインフレ率の差で調整した「実質」為替相場を算出し、それを加重平均した円相場が「実質」「実効」為替相場である。
これが価格競争力の実勢を現している。
日本銀行が算出した円の実質実効為替相場を描いたものがある。
これを見ると、円は〇〇年の始めから〇七年の中頃まで、三八%も円安となり、国際協調でドル安を進めた八五年のプラザ合意前の水準まで下がっている。
言葉を変えると、為替レートで換算した場合、諸外国の物価は日本の国内物価に比して三八%も割高になっていた。
〇七年中頃まで、日本国民は、外国製品を三八%も高く買うようになり、海外旅行中の外国の諸物価は三八%も高く感じるようになった。
また国民が支払う円建ての海外旅行の費用も、これを反映して高くなった。
これは、日本の国民生活にとって、明らかに不利な話である。
雇用は減り実質賃金は下落 以上のように、国民生活は消費者物価の上昇、超低金利、円安によって三重の不利益を蒙ったが、四番目の苦痛は国民生活を支える賃金・雇用情勢の悪化である。
「毎月勤労統計調査(毎勤)」(厚生労働省調べ)の常用労働者数と「労働力調査(労調(総務省調べ)の雇用者数と、常用労働者の内訳である一般(フルタイム)とパートの寄与度を比較してみたい。
〇二年から始まった景気上昇の過程で、常用労働者も雇用者も、デフレが終わった〇四年から増加し始めた。
しかし、常用労働者の内訳を見ると、始めはパートが増加し、一般が減少していたことが分かる。
パートのみならず、一般の常用労働者が増加し始めたのは、〇五年以降である。
しかし、〇八年から景気後退が始まると、常用労働者の増加率は低下し、雇用者の増加率はほとんどゼロになった。
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